BSL in Montreal

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我が家の3頭目ズーランダー、通称ズー君。彼はNYのブロンクスで保護された捨て犬ピットブルで、シェルターで殺処分寸前のところを、うちがフォスター(一時預かり)に立候補して救出された。この写真は我が家に来て数日後の2015年1月24日撮影。この時は、うちでもまだ、ズーを正式に引き取る予定はなかった。

 

先週の火曜日、カナダのモントリオールの市議会で、『ピットブル飼育禁止条例』が可決された。

ピットブルという種類の犬、もしくは、ピットブルの特徴的な容姿(首が太く頭部が大きい、など)をしている犬の飼育を禁止、現在そのカテゴリーの犬を飼っている家庭は、避妊手術を済ませた上、115米ドル(1万2000円ぐらい)の手数料を払って特別飼育認可を申請し、認可された場合に限り飼育継続が許され、戸外を散歩させるときはリーシュは1メートル以内、口吻部にはマズルを着用させること、という厳しい条件がつけられることになった。

新たにシェルター等から保護犬を迎え入れるにしても、今後はピットブルの市民への譲渡は一切不可となる。

つまり、いま現在、シェルターで里親出現を待ち続けているピットブルたちは、明後日までにモントリオールの外に運び出されなければ、否応なしに殺処分となる。

モントリオール市では毎年700頭を超えるピットブルやピット系の犬が保護されシェルターに入るという。そして、モントリオール市民が飼育している犬のうち、市の条例にひっかかりそうな犬は少なくとも7000頭はいると見積もられている。

低所得の家庭にとっては115ドルといえども気楽に支出できる額ではない。またそうした家庭の多くが、犬に使うお金がないという理由から、避妊手術を施していない犬を飼っている。

我が家のズーランダーも、サウスブロンクスのゲットーで厳冬の朝フェンスにワイヤで縛りつけられて捨てられているところを保護されたとき、まだ去勢されていなかったため、預かりを申し出た私が、クリニックに連れていき手術を受けさせた。ニューヨークでも貧困地域で捕獲・保護される犬の多くが去勢/避妊手術を済ませていない。

モントリオールの場合も、要するに、十分なお金がなければ条例規則を満たすことができないのだ。

7000頭のうち半分の犬しか許可されなかったとしたら、処分対象になるピットブルは3500頭。シェルター経由のピットブル700頭と併せて、4000頭を超す犬が、「ピットブルとして生まれてきた」という、ただそれだけの理由で、処分されることになる。

モントリオールのように、ある特定の種類の犬だけを禁止する法律や条例を、英語で Breed Specific Legislation(特定犬種法、略してBSLという。

 

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ピットの子犬

条例可決に至った背景

モントリオールがこの条例を可決する数か月前の2016年6月、同市に住む55歳の女性が、自宅裏庭で一頭の大型犬に襲われ、嚙み殺されるという凄惨な事件が起こった。

Neighbor Describes dog attack on woman killed in her backyard (CBC News)

発見者は隣家の男性で、普段通り仕事から戻り、ふと垣根越しに隣家の庭をみると、一頭の犬が何かと遊んでいるように見えた。しかし、よく目を凝らしてみると、犬は遊んでいるのではなく、何かの"物体"に挑んでいるように見え、近づいてさらにみると、その"物体"には人間の髪の毛がついており、彼は絶叫して警察に通報した。

警察が到着したとき、その女性は、体中噛み傷だらけで一面血だらけ、その場で死亡が確認された。

目撃者かつ第一発見者の隣家の男性は、あまりの凄惨な光景を目にして以来、夜も眠れず酷いストレスにさいなまれた。

間もなく、その犬の飼い主が見つかり、その犬は野犬ではなく、飼い犬としてモントリオール市に登録されていたことがわかり、登録書類上に飼い主が書き込んでいた犬種は「ボクサー」だった。飼い主はボクサー系だと思っていたのだ。

同市では、それまでも犬による咬傷事故が何件も報告され、中には軽傷では済まない出来事も含まれ、市として犬の管理・取締りをもっと厳しくすべきだという声が市民から寄せられていたが、この凄惨な事件により、市民のフラストレーションは一挙に爆発、「凶暴な犬、危険な犬、飼育に適さない犬」はモントリオール市で飼えないようにしろという声が強まり、事件後数か月という短期間で、BSL条例が固まった。

しかし、BSLをすでに実行している自治体のうち、ピットを除去した後に咬傷事故が目だって減少したことを裏付ける客観的で有意なデータを示せる自治体は、実は、ない。また「ピットブル」の定義もまちまちで、今回のモントリオールの条例も、「見た目」という主観的な要素を判断基準にしているが、これも問題だ。これまでも、咬傷事故を起こした犬が当初は見た目からピットと判断されていたが、DNAテストをしたところロットワイラーやラブラドールに繋がる雑種と判明したこともあるそうだ。そのため、BSLの意義や効果に疑問を投げかける専門家や法律家は実際少なくない。

米国では、この問題はホワイトハウスにまで持ち込まれ、米政府は数年前に正式にBSLをサポートしない旨を表明している。

Breed-Specific Legislation is a Bad Idea (米国政府、2012年12月19日)

 

可決後の動き

モントリオールでBSL条例が可決され、一週間後に同条例は発効されることになった。つまり、こんどの月曜日をもって、「ピットブル」あるいは「ピットのような風貌をした犬」は飼育禁止となり、市民に上記のとおりの届け出義務が課せられるとともに、特別監視官も8人以上配置して、届け出のないピットブルを飼っている家庭がいないか目を光らせ、見つけ次第罰則をほどこしたり没収したりすることにもなった。シェルターにいるピットについては随時、殺処分を実行することも決まった。

そこからが大騒ぎの始まりだった。

カナダの動物愛護団体はもちろん、おとなりの米国でも、モントリオール市の決定に大きなショックを受けた多くのレスキュー団体が反対表明し、フェースブックを中心にモントリオール市内のピットブルたちをなんとか救出できないか、米国側でも一時預かりできるひとがいないかと、盛んに情報交換し始めた。現地にバンを走らせセスナ機を飛ばし、「ともかく殺処分されるであろう犬をモントリオールから出すだけ出す(そこから先はそのあとに考えよう)」とファンディング要請が立ち上がり、瞬く間に2万6千ドル以上が集まっていた。

モントリオールのSPCA(大手の動物愛護団体)は、モントリオール市議の決定は科学的根拠を欠いており、何をもってピットと判断するのかの基準すら曖昧で差別的かつ実効性乏しく、不必要に大規模に動物殺戮を行うものであるという趣旨で、市を相手どり訴訟を起こした。この訴訟のヒアリングが行われるとすれば、いちばん早い日で次の月曜日、条例が発効になるのと同日だ。もし訴訟手続きが進むことに決まれば、裁判の期間中は条例はひとまず停止される、すなわち、殺処分もお預けになるということらしく、できるだけ時間を稼ぐ目的もそこには入っている。

 

反対署名運動

さらに、モントリオールに対し、なんとか考え直してくれないか、という草の根署名運動も立ち上がった。

署名運動により、自治体の決定が覆された例は、これまでもいくつもある。

北アイルランドで、飼育禁止されているピットブルに見えるという理由で、自治体が家族からペットの犬を無理やり引き剥がし隔離。しかし世界中から30万名を超す署名が集まり、その犬は飼い主の少年の元に戻された。

 

わたしに今すぐできること、それが署名に参加することだと思ったので、私は署名しました。

以下に、その代表的な署名運動の趣旨を英文から意訳します。もし趣旨に賛同なさる方は、どうか署名してください。(コメントなどは書き込む必要はありません。)


署名リンクその①: My Motreal includes ALL dogs (GoPetition.com)

To Denis Coderre (Mayor of Montréal, Québec, Canada):

モントリオール市長へ

If you and your city council politicians insist on restricting and banning dogs because of the way they look, then we and all of OUR friends will choose not to contribute to the City of Montreal tourism revenue.

貴方と市政に関わる政治家が「見た目」で犬の飼育を制限・禁止するというのなら、我々と我々を支持する者たち全員で、モントリオール市の観光収入に貢献することを今後はやめさせてもらいます。

As long as you have breed-specific language in your laws, we will boycott the city of Montreal.

ある特殊な犬種を法律に盛り込む限り、我々はモントリオール市をボイコットします。

We will not condone the discrimination created by you, Mayor Coderre, and your political friends. You already know from every expert that this type of legislation does not improve public safety.

我々はあなたとあなたの政治家のお友達が作り出した差別は、断固として受け入れる気はありません。あなたは前々から、この手の法律が公共安全を促すことはないとあらゆる専門家から聞いて知っているではないか。

Instead of implementing proven bylaws and programs that work, as long as you are willing to take the lazy approach to public safety, killing thousands of unoffending family pets in order to look like you are “doing something”, then you, your city council, and your city do not deserve our money.

公共安全のため、効果が認められると既にわかっている条例やプログラムを実行する代わりに、あなたは怠惰なアプローチを敢えて取り、自分が「何かをやっている」と見せかけるために、何千頭という罪もないペットを殺そうとしている、それがあなたと市議会がやったことだ。そんな町のために、我々は一銭たりともお金を落とすつもりはない。

My Montréal includes ALL dogs!

私たちのモントリオールは、全ての犬が生きられる町であるべきだ!

#MTLmomentsincludealldogs

Supported by the following organizations:

以下の団体が支援しています。

Dog Legislation Council of Canada
HugABull
Justice for Bullies
Ontario “Pit Bull” Co-op

 


署名リンクその②:Montreal Please Reverse Your Decision to Ban Pit Bulls! (Change.org)

Montreal Please Reverse Your Decision to Ban Pit Bulls!

モントリオールよ、どうかピットブル飼育禁止の決定を取り下げてください!

A few weeks ago, we learned of the potential of Montreal banning pit bulls, but we certainly didn’t think it was going to pass.  Sadly it has and it is a virtual death sentence to thousands of dogs in the area, but we can stop it.

一週間前、モントリオールがピットブル飼育を禁止にする可能性があると耳にしたとき、私たちはそのような条例案が議会を通過するとは考えていませんでした。しかし悲しいことに、それは現実となり、同市の何千頭という犬に、実質的に死刑宣告が下されました。しかし、私たちの力でそれを阻止しようではありませんか。

At a meeting Tuesday, Montreal City Council passed a measure that effectively bans any dog that looks anything similar to that of a pit bull. Dogs in the shelter with this look cannot be adopted.

火曜日の会合でモントリオール市議会はピットブルに見える犬ならどんな犬でも飼育を禁止する法案を可決しました。シェルターにいる犬のうち、ピットに見える犬は譲渡もできなくなりました。

Breeds not allowed are American pit bull terrier, American Staffordshire terrier and Staffordshire bull terriers.

この条例の対象になる犬種は、アメリカン・ピットブル・テリア、スタフォードシャー・テリア、そしてスタフォードシャー・ブルテリアです。

For dogs without an owner, the day of the legislation, those dogs will be effectively euthanized.  It is worth noting that rescue groups were able to get some of the dogs at risk out of local shelters in advance of the measure passing.

飼い主がいない犬は、この条例が発効されるその日に、殺処分が実質的に確定します。この条例可決の前からレスキュー団体らが動きだし、モントリオールの動物シェルターから殺処分対象のリスクがある犬達を、一部だけですが、引き出していることはお伝えしておきましょう。

This ban needs to be stopped now.  We have the utmost confidence that with your help, and our extensive networking in the animal rescue community, we can stop this.

この条例はいますぐ止められなければならない。あなたの署名というお力添えを得て、アニマル・レスキュー・コミュニティの広汎なネットワークを駆使して、これを阻止することができるはずです。

This petition will be delivered to: 

Maire, Ville de Montréal / Mayor, City of Montreal Denis Coderre

Montreal city council

この嘆願書はモントリオール市長と同市議会へ届ける予定です。

 

もしも、私がモントリオールに住んでいたら、ピットブルのズー君も同様の扱いを受けるわけです。ズー君はわたしの家族。やさしいズー君の飼い主として、このような決定は断じて受け入れることはできません。

わたしからも、ズー君とともに、ご協力に感謝いたします!

One thought on “BSL in Montreal

  1.  先程、Citizens for a Better Montreal さんから署名が400,000を超えたというメールが届きました。
     亡くなった被害者の女性は、大変お気の毒です。彼女の苦痛や恐怖を想像すると心が痛みます。ご冥福をお祈りするとともに、飼い主の責任が問われるのは仕方のないことだと考えます。
     しかし、飼い主の責任を重くして飼育を免許制にするというのならともかく、その犬と同じ種類の犬は飼ってはならない、そのためにシェルターにいるその種類の犬はすべて殺処分するというのは、飛躍しすぎの暴論です。
     小さな勝利がやがて大きな勝利につながることを祈っております。

     ところで、以前申し上げていた文芸小説ですが一巻が無事Amazonの審査をとおりました。
     もしご迷惑でなくれば、このブログのE-Maile欄に書き込みさせていただいたメールアドレスまでご連絡いただけないでしょうか。無論、ご迷惑でしたら、無視して下さい。

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