Free Willyと最後のシャチの赤ちゃん

ハリウッド映画『Free Willy』は、水族館に囚われの身でいたシャチのウィリーと心を通わせ合った少年が、ウィリーを自然の大海に戻そうと奮闘する物語。
Free Willy.jpg

この映画でウィリーの役をやったシャチは、実際はKeikoという名で、ノルウェー沖で捕獲されたあと22年間も水族館の水槽で過ごし、水族館を訪れる客たちに曲芸を披露するスターだった。

映画『Free Willy』の大成功により、Keikoも(映画のように)自然の大海の仲間のところに戻してあげたいという愛護運動がアメリカで巻き起こる。資金も集まり、「Keiko自然復帰プロジェクト」が現実に稼働を始めた。

しかし、ハリウッド映画の作り話のように話が進むはずもなく、結局、Keikoを自然界に返すため総額$20ミリオン(20億円以上)をかけたものの、Keikoは人間のそばを離れることができず、人間と交流したがり、最期は体が弱って、数年後に北欧の村の海辺で村人たちに見守られながら息を引き取った。

人間の人間による人間のための「シャチ愛護プロジェクト」はこうして失敗に終わった。2003年のこと。

「Keiko自然界復帰プロジェクト失敗」の顛末は、こちらのNYタイムズのドキュメンタリービデオ(10分)に詳しいです。

https://static01.nyt.com/video/players/offsite/index.html?videoId=100000002441985

2013年、『Blackfish』というドキュメンタリー映画が発表された。

こちらは、フロリダ州の水族館Sea Worldで、訓練士の女性を水中に引きずり込んで溺死させたシャチのTilikumが主人公。

まだ赤ん坊だった頃に北欧の海で捕獲され人間界に連れてこられたTilikum。

彼は水族館でどんな生活を強いられてきたのか、訓練士3名を溺死させることになったのは、Tilikumが育ったシーワールドの生育環境に問題があったからではないのか、と問いかけ掘り下げた問題作だ。

大型哺乳類のシャチが、狭いコンクリート水槽に閉じ込められ、身動きできない様子を観たひとたちは、一様にショックを受けた。

アメリカでは、このドキュメンタリー映画が世論に強い影響を与え、「シャチを閉じ込めるな、海に戻せ」という声が愛護運動家からのみならず、一般市民の間からも盛り上がり、多くの署名が集まった。

この騒ぎにより、全米各地で大型水族館を経営するシーワールド・エンターテインメント社に対するネガティブなイメージが拡大し、入園者数は減少し、同社株価も下落。シーワールド社は結局、今後はシャチの捕獲や館内での繁殖を行わないと明言し、現在同社に所属するシャチの曲芸ショーも2019年までに順次廃止してゆく経営方針を固め、昨年発表した。

SeaWorld to phase out killer whale shows, captivity (USA Today, March 17, 2016)

次の動画は、シーワールドが「新たな未来」と題して全米のTV局でプロモに流したコマーシャル。

ナレーション「クジラを自然界に戻せという声がある。一部のひとたちにとっては、自然界に返すこと以外の選択は受けつけられないという。しかしシーワールドにいるシャチのほとんどが、シーワールドで産まれ育ったシャチたちです。無理やり自然界に戻そうとしても、Keikoの自然復帰で失敗したように、むしろ殺してしまうことになりかねないのです。でも時代は変わった。私たちも変わらなければならない。私たちは今後、館内でシャチの繁殖は行わないと決めました。曲芸ショーも順次廃止してゆきます。いまシーワールドにいるシャチたちには世界最高のケアを生涯施します。彼らが最後のジェネレーション。彼らのすばらしい姿をシーワールドに見に来てください。」

今年の1月、映画『Blackfish』の主役だったシャチのTilikumが、衰弱のうえ肺炎を起こし、館内で死亡したというニュースが伝わった。映画公開後からTilikumを自然に戻せという声は続いていたが、Keikoの前例があったためその選択は取られることはなく、Tilikumは水族館内で息を引き取り30余年の生涯を閉じた。

Tilikum, SeaWorld orca whale that killed trainer and inspired ‘Blackfish’ documentary, dies (New York Daily News, January 6, 2017)

そして昨日—。

シーワールドから生命誕生のニュースが流れた。

シーワールドに所属するシャチの一頭Takaraが赤ちゃんを無事出産したそうだ。Takaraはシーワールドが館内繁殖廃止を決定する前に妊娠していたため、Takaraが産んだこの赤ちゃんが同社の最後のシャチの赤ちゃんとなります。

産まれる瞬間の感動的な動画です。産まれた瞬間から母親の横にくっついて泳ぐ赤ちゃんシャチの姿、とても綺麗。訓練士の女性もこれで最後なのだと感極まった表情です。

「シーワールドの新たな未来」プロモーションビデオから:

“We also understand that time has changed.  Today people are concerned about the world’s largest animals like never before.  So we too must change. ”

「時代は変わったのだと我々は理解しています。ひとびとは世界最大級の動物のことをこれまでになく心配しています。だから、我々も、変わらなければならない。」

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