Inner Wolf : 内なるオオカミ

以前からイエローストーン国立公園のオオカミ復興プロジェクトについては耳にしてはいたが、先日、『American Wolf』という本に触れ、改めて、オオカミに強い興味を惹かれるようになった。

2017年に米国で出版され、ほうぼうで注目を集めたこの本の主人公は「O-six(オーシックス)」と呼ばれたメスのオオカミ(写真)。イエローストーン国立公園内の数ある狼のパック(群れ)の中でもひときわ人気を博した群れのリーダーだった。

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O-six

野生のオオカミのパック・リーダーはオスがなると思われがちだが、実はメスもリーダーになる。この本は、メスのリーダーO-sixの逸話を柱として、野生のオオカミの生態を語り、絶滅しかかったアメリカのオオカミの保護に取り組むひとびと、保護に反対するひとびと、さらには、賛成派と反対派の綱引きに多大な影響を与える環境保護規制や米政界ポリティクスにも言及し、オオカミを取り巻く話題をさまざまな視点から網羅したノンフィクションだ。

本書を読み進むうちに、パック・リーダーの行動に見られる「リーダーとしての資質」に、わたしは強い興味をひかれた。オオカミには、人間のように、「empathy」があるというのだ。

empathy とは、the ability to understand and share the feelings of another、相手の気持ちを理解しともに感じる能力、すなわち「相手に共感する能力」のことだ。群れを引っ張ってゆける者の資質は「フィジカル(肉体的)な強さ」だけではない。危機に遭遇したときの瞬時にして適切な判断力、ずばぬけた勇気と行動力、自分が率いる社会への責任感と忠誠心、そして、empathyからくるやさしさ、それらが揃って群れの信頼を得てリーダーとなり、サバイバルのために群れを統率する。

「リーダーシップとはなにか」というテーマで、オオカミから強いインスピレーションを得ることになった。

この本についてはまた別途書くとして、本エントリーでは、この本が出版されるより2年以上前に、ニューヨークタイムズに掲載された一本の記事を翻訳して紹介したい。

この記事で語られるのは、やはり同じイエローストーン国立公園で、長年、無敵の王者として君臨し伝説化した一頭のオスのパックリーダーの話だ。世間一般でイメージされている「アルファ・メール(Alpha Male)」のステレオタイプとは一線を画すオスのオオカミの行動様式が興味深い。


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イエローストーン国立公園の野生のオオカミ

Tapping Your Inner Wolf

By CARL SAFINA

JUNE 5, 2015

MEN often face pressure to measure up as alpha males, to “wolf up” as it were. Alpha male connotes the man who at every moment demonstrates that he’s in total control in the home, and who away from home can become snarling and aggressive.

男性はしばしばアルファ雄として「雄のオオカミのごとく」立ち振る舞うようプレッシャーをかけられる。アルファ雄と言えば、家庭ではあらゆることをコントロールし、家を離れれば唸り声を挙げて威嚇し攻撃的にもなる、そういう男性像を暗に指す。

This alpha male stereotype comes from a misunderstanding of the real thing. In fact, the male wolf is an exemplary male role model. By observing wolves in free-living packs in Yellowstone National Park, I’ve seen that the leadership of the ranking male is not forced, not domineering and not aggressive to those on his team.

だが、そうしたアルファ雄のステレオタイプは実像からかけ離れた誤解から生じたものだ。実際、雄のオオカミは、人間の男性にとって模範的なロールモデルと言ってよい。イエローストーン国立公園の中を自由に動き回るオオカミの群れを観察してみると、群れの最高位にいる雄が見せるリーダーシップは、見せかけの強さでもなければ、群れの仲間への高圧的で攻撃的な態度でもない。

“The main characteristic of an alpha male wolf,” the veteran wolf researcher Rick McIntyre told me as we were watching gray wolves, “is a quiet confidence, quiet self-assurance. You know what you need to do; you know what’s best for your pack. You lead by example. You’re very comfortable with that. You have a calming effect.”

一緒にグレイウルフを観察していたとき、オオカミ研究のベテラン、リック・マッキンタイアー氏は私にこんなことを言った。「アルファ雄のオオカミに備わるもっとも特徴的な点は、静かな自信に満ち溢れている、ということだ。いま何をする必要があるかを知っており、どうすれば群れにとって最良かをわかっている。自ら例を示して群れを導く。そういう自分の姿に違和感を抱いていない。彼がそこにいることで群れが落ち着く。」

The point is, alpha males are not aggressive. They don’t need to be. “Think of an emotionally secure man, or a great champion. Whatever he needed to prove is already proven,” he said.

ポイントは、アルファ雄はアグレッシブではないという点だ。アグレッシブになる必要がないのだ。「感情的に落ち着いている人間の男性を思い浮かべてみるといい。あるいは偉大なるチャンピオンを。強さを証明せねばならないとしたら、彼はすべて証明してしまっている、そういう姿だ。」

There is an evolutionary logic to it.

そこには進化上のロジックがある。

“Imagine two wolf packs, or two human tribes,” Mr. McIntyre said. “Which is more likely to survive and reproduce? The one whose members are more cooperative, more sharing, less violent with one another; or the group whose members are beating each other up and competing with one another?”

マッキンタイアー氏は言う。「いま、ふたつのオオカミの群れ、あるいは、ふたつの人間の部族がいたとしよう。一方の群れはより協力的で、互いに譲り合い、仲間内で暴力的にならない。もう一方の群れは仲間同士で喧嘩ばかりしていて、競争が絶えない。どちらの群れのほうが存続して子孫を増やせる可能性が高いだろうか。」

Thus, an alpha male may be a major player in a successful hunt but then, after the takedown of the prey, may step away and sleep until his pack has eaten and is full.

アルファ雄は狩猟の際に獲物を倒す立役者にはなっても、獲物を仕留めた後は、群れの他のメンバーが十分腹を満たすまで、自分は脇に退いて眠りに落ちることもある。

Mr. McIntyre has spent 20 years watching and studying wolves in Yellowstone for the National Park Service. He rises early, uses radio telemetry to pinpoint the location of a pack with a radio-collared member, then heads out with his spotting scope to observe them, keeping careful notes of their activities.

マッキンタイアー氏はイエローストーン国立公園のパークサービス職員として20年の長きに渡りオオカミを観察し研究し続けてきた人物だ。彼は毎朝早朝に起床し、無線遠隔測定機を使って首輪型の電波発信機をつけたオオカミのいる群れの位置を絞り込み、観察用の望遠鏡を抱えて現場に向かい、彼らの行動を丹念に記録する。

In all that time, he has rarely seen an alpha male act aggressively toward the pack’s other members. They are his family — his mate, offspring (both biological and adopted) and maybe a sibling.

長年の観察において、アルファ雄が自分の群れのメンバーに攻撃的な態度を取っているのを彼はほとんど見たことがないという。群れのメンバーは彼の家族だ。群れには、連れ添う雌の相方がいて、実子のほか養子に迎え入れた子ども達がいて、きょうだい身内が含まれていることもある。

This does not mean that alpha males are not tough when they need to be. One famous wolf in Yellowstone whose radio collar number, 21, became his name, was considered a “super wolf” by the people who closely observed the arc of his life. He was fierce in defense of family and apparently never lost a fight with a rival pack. Yet within his own pack, one of his favorite things was to wrestle with little pups.

だが、アルファ雄のオオカミがタフではないという意味ではない。必要に迫られればタフになる。イエローストーン国立公園には一頭の有名なオオカミがいた。彼の首輪の電波発信機の番号が21番だったため、21(トウェンティワン)という名前で呼ばれたその雄のオオカミは、彼の生涯をつぶさに観察し続けた人々から「スーパーウルフ」という異名を取った。彼は家族を守るべき場面では果敢に戦い、ライバルの群れとの闘いで敗北したことが一度もなかった。しかし、自分の群れの中で過ごす時、そのアルファ雄のオオカミが何より好んだのは、こども達とじゃれて遊ぶことだった。

“And what he really loved to do was to pretend to lose. He just got a huge kick out of it,” Mr. McIntyre said.

「こども達と遊びながら、負けたフリをするのが彼は大好きだったのです。それが楽しくて仕方ない、といった風だった。」とマッキンタイア―氏が言う。

One year, a pup was a bit sickly. The other pups seemed to be afraid of him and wouldn’t play with him. Once, after delivering food for the small pups, 21 stood looking around for something. Soon he started wagging his tail. He’d been looking for the sickly little pup, and he just went over to hang out with him for a while.

ある年のこと、群れのこども達の中に、やや病弱な一頭がいた。他のこどもたちは、その病気がちの子を嫌がり一緒に遊ぼうとしなかった。あるとき、こども達に餌を届けに来たあと、アルファ雄の21はそこに留まり何かを探してる様子だったが、やがて尻尾を振り出した。21が探していたのは病弱な仔オオカミだったのだ。21はその子に近づき、しばらく一緒に時間を過ごしてあげた。

Of all Mr. McIntyre’s stories about the super wolf, that’s his favorite. Strength impresses us. But kindness is what we remember best.

スーパーウルフにまつわる逸話の中で、これがマッキンタイアー氏がいちばん好きなエピソードだという。強さは相手を唸らせる。しかし、やさしさほど強く記憶に残るものはない。

If you watch wolves, it’s hard to escape the conclusion that perhaps no two species are more alike behaviorally than wolves and humans. Living as we do in families, we can easily recognize the social structures and status quests in wolf packs. No wonder Native Americans recognized in wolves a sibling spirit.

オオカミを観察すれば、オオカミぐらい人間とよく似た行動を取る動物はおそらく他にいないと誰もが感じるだろう。人間と同様に、家族と暮らすオオカミは、社会的な構造を作り上げ、群れにおけるステータスを築く。アメリカ大陸先住民たちがオオカミは同胞同士、魂で通じ合っていると気づいたのもうなづける。

The similarities between male wolves and male humans can be quite striking. Males of very few other species help procure food year-round for the entire family, assist in raising their young to full maturity and defend their packs year-round against others of their species who threaten their safety. Male wolves appear to stick more with that program than their human counterparts do.

雄のオオカミと人間の男性は、驚くほど似通ったところがある。一家のために年じゅう食糧確保に奔走したり、こども達が十分大人に育つまでは育児に参加したり、身内の安全を脅かす他の種から家族を年じゅう守ろうとする。雄がそういう行動をする動物種は人間とオオカミの他にはほとんど例がない。そして雄のオオカミのほうが、人間以上に、そうした自分の役割をしっかり果たそうとしているように見える。

Biologists used to consider the alpha male the undisputed boss. But now they recognize two hierarchies at work in wolf packs — one for the males, the other for the females.

ひと昔前まで、生物学者らは、アルファ雄こそが抗う者を許さない唯一最高の権力者だと考えていた。しかし今日では、オオカミの群れにはふたつのヒエラルキーが存在していることがわかっている。ひとつは雄の序列、そして、もうひとつは雌の序列だ。

Doug Smith, the biologist who is the project leader for the Yellowstone Gray Wolf Restoration Project, said the females “do most of the decision making” for the pack, including where to travel, when to rest and when to hunt. The matriarch’s personality can set the tone for the whole pack, Dr. Smith said.

イエローストーン国立公園グレイウルフ復興プロジェクトのリーダーで生物学者のダグ・スミス氏によると、群れがどこへ向かうか、いつ休憩するか、いつ獲物を狩るか、といった決定事項のほとんどは「メスのオオカミが決める」という。雌の統率者のパーソナリティが、その群れ全体の性格を決めるのだという。

Or, as Mr. McIntyre put it: “It’s the alpha female who really runs the show.”

マッキンタイア―氏の言葉を借りると、「舞台を実際に回しているのはアルファ雌のほう」ということになる。

Clearly, our alpha male stereotype could use a corrective makeover. Men can learn a thing or two from real wolves: less snarl, more quiet confidence, leading by example, faithful devotion in the care and defense of families, respect for females and a sharing of responsibilities. That’s really what wolfing up should mean.

我々が持つアルファ雄のステレオタイプは、明らかに、塗り直されてもいいだろう。人間の男性はオオカミの実像からいくつか学べることがある。実際のアルファ雄のオオカミは、我々が考えているほど威嚇的ではない。むしろ静かな自信に満ちており、例を示して他を導き、家族のケアと保護にいそしみ、雌にリスペクトを払い、責任を分担し合う。それこそが「雄のオオカミのごとく」と言ったときの意味であるべきだ。

(注:誤訳はすべて著者の責任です。指摘してください。)

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理想の男性像
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Free Willyと最後のシャチの赤ちゃん

ハリウッド映画『Free Willy』は、水族館に囚われの身でいたシャチのウィリーと心を通わせ合った少年が、ウィリーを自然の大海に戻そうと奮闘する物語。
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この映画でウィリーの役をやったシャチは、実際はKeikoという名で、ノルウェー沖で捕獲されたあと22年間も水族館の水槽で過ごし、水族館を訪れる客たちに曲芸を披露するスターだった。

映画『Free Willy』の大成功により、Keikoも(映画のように)自然の大海の仲間のところに戻してあげたいという愛護運動がアメリカで巻き起こる。資金も集まり、「Keiko自然復帰プロジェクト」が現実に稼働を始めた。

しかし、ハリウッド映画の作り話のように話が進むはずもなく、結局、Keikoを自然界に返すため総額$20ミリオン(20億円以上)をかけたものの、Keikoは人間のそばを離れることができず、人間と交流したがり、最期は体が弱って、数年後に北欧の村の海辺で村人たちに見守られながら息を引き取った。

人間の人間による人間のための「シャチ愛護プロジェクト」はこうして失敗に終わった。2003年のこと。

「Keiko自然界復帰プロジェクト失敗」の顛末は、こちらのNYタイムズのドキュメンタリービデオ(10分)に詳しいです。

https://static01.nyt.com/video/players/offsite/index.html?videoId=100000002441985

2013年、『Blackfish』というドキュメンタリー映画が発表された。

こちらは、フロリダ州の水族館Sea Worldで、訓練士の女性を水中に引きずり込んで溺死させたシャチのTilikumが主人公。

まだ赤ん坊だった頃に北欧の海で捕獲され人間界に連れてこられたTilikum。

彼は水族館でどんな生活を強いられてきたのか、訓練士3名を溺死させることになったのは、Tilikumが育ったシーワールドの生育環境に問題があったからではないのか、と問いかけ掘り下げた問題作だ。

大型哺乳類のシャチが、狭いコンクリート水槽に閉じ込められ、身動きできない様子を観たひとたちは、一様にショックを受けた。

アメリカでは、このドキュメンタリー映画が世論に強い影響を与え、「シャチを閉じ込めるな、海に戻せ」という声が愛護運動家からのみならず、一般市民の間からも盛り上がり、多くの署名が集まった。

この騒ぎにより、全米各地で大型水族館を経営するシーワールド・エンターテインメント社に対するネガティブなイメージが拡大し、入園者数は減少し、同社株価も下落。シーワールド社は結局、今後はシャチの捕獲や館内での繁殖を行わないと明言し、現在同社に所属するシャチの曲芸ショーも2019年までに順次廃止してゆく経営方針を固め、昨年発表した。

SeaWorld to phase out killer whale shows, captivity (USA Today, March 17, 2016)

次の動画は、シーワールドが「新たな未来」と題して全米のTV局でプロモに流したコマーシャル。

ナレーション「クジラを自然界に戻せという声がある。一部のひとたちにとっては、自然界に返すこと以外の選択は受けつけられないという。しかしシーワールドにいるシャチのほとんどが、シーワールドで産まれ育ったシャチたちです。無理やり自然界に戻そうとしても、Keikoの自然復帰で失敗したように、むしろ殺してしまうことになりかねないのです。でも時代は変わった。私たちも変わらなければならない。私たちは今後、館内でシャチの繁殖は行わないと決めました。曲芸ショーも順次廃止してゆきます。いまシーワールドにいるシャチたちには世界最高のケアを生涯施します。彼らが最後のジェネレーション。彼らのすばらしい姿をシーワールドに見に来てください。」

今年の1月、映画『Blackfish』の主役だったシャチのTilikumが、衰弱のうえ肺炎を起こし、館内で死亡したというニュースが伝わった。映画公開後からTilikumを自然に戻せという声は続いていたが、Keikoの前例があったためその選択は取られることはなく、Tilikumは水族館内で息を引き取り30余年の生涯を閉じた。

Tilikum, SeaWorld orca whale that killed trainer and inspired ‘Blackfish’ documentary, dies (New York Daily News, January 6, 2017)

そして昨日—。

シーワールドから生命誕生のニュースが流れた。

シーワールドに所属するシャチの一頭Takaraが赤ちゃんを無事出産したそうだ。Takaraはシーワールドが館内繁殖廃止を決定する前に妊娠していたため、Takaraが産んだこの赤ちゃんが同社の最後のシャチの赤ちゃんとなります。

産まれる瞬間の感動的な動画です。産まれた瞬間から母親の横にくっついて泳ぐ赤ちゃんシャチの姿、とても綺麗。訓練士の女性もこれで最後なのだと感極まった表情です。

「シーワールドの新たな未来」プロモーションビデオから:

“We also understand that time has changed.  Today people are concerned about the world’s largest animals like never before.  So we too must change. ”

「時代は変わったのだと我々は理解しています。ひとびとは世界最大級の動物のことをこれまでになく心配しています。だから、我々も、変わらなければならない。」