デート・レイプ・ドラッグ(翻訳)

アメリカ合衆国保険福祉省(US Department of Health and Human Services, 略してHHS)の一部として、女性の健康問題を主として取り扱う部署Office on Women’s Health(OWH)があります。以下は、その部署のサイトにある『デート・レイプ・ドラッグ』の項目の翻訳です。

原文URL: https://www.womenshealth.gov/a-z-topics/date-rape-drugs

 


デート・レイプ・ドラッグ

デート・レイプ・ドラッグは違法であり、性的暴行の幇助に用いられることがあります。性的暴行(Sexual Assault)とは、当人の合意無しに行われるあらゆる種類の性行為を指します。デート・レイプ・ドラッグは往々にして無色無味無臭のため、投薬されたかどうかを自分で判断することができません。当該薬物が投与されると、具合が悪くなったり、混乱したり、時には意識を失うことがあり、性行為への同意が不可能になります。デート・レイプ・ドラッグは男女問わず使用され得るものです。


 

デート・レイプ・ドラッグとは何ですか?

性的暴行の最中にこれら薬物が用いられる場合があります。ここでいう性的暴行(Sexual Assault)とは当人の合意無しに行われるあらゆる種類の性行為を指し、許容できない接触、膣内への物の挿入、レイプ、レイプ未遂等はすべてここに含まれます。

デート・レイプ・ドラッグは強力かつ危険な薬物で、被害者が目を離した隙に飲み物に混入される可能性があります。これら薬物は往々にして無色無味無臭のため、投薬されたかどうかを自分で判断することができません。当該薬物が投与されると、具合が悪くなったり、混乱したり、時には意識を失うこともあり、性行為への同意が不可能になります。薬物が効いている間に何が起こったのかを覚えていないこともあります。デート・レイプ・ドラッグは女男問わず使用され得るものです。

こうした薬物はダンスクラブ、コンサート、”レイヴ“などの場で用いられることが多いため「クラブ・ドラッグ」という名でも通っています。

「デート・レイプ(date rape)」という言葉は広く使われる言葉ですが、専門家の多くは「薬物を悪用した性的暴行(drug-fascilitated sexual assault)」という用語をたびたび使用します。また、強盗(robbery)や身体的暴行(physical assault)といった他の犯罪目的にこれらの薬物が使用されることもあります。さらに、加害者が被害者と必ずしも交際(デート)しているわけではないため、「デート・レイプ」という言葉には語弊があります。加害者は単なる知り合いだったり全くの他人であることもあるのです。

 

デート・レイプ・ドラッグとして用いられている一般的な薬剤には何がありますか?

デート・レイプ・ドラッグには次の3種類が最も一般的に用いられています。

  • ロヒプノール(Rohypnol) ロヒプノールはフルニトラゼパム(flunitrazepam)の商品名です。米国の一部ではロヒプノール乱用に変わり類似した他の二種類の薬物が用いられてきているようです。これら二種の薬物とは、クロナゼパム(clonazepam)とアルプラゾラム(alprazolam)で、前者は米国ではクロノピン(Klonopin)、メキシコではリボトリール(Rivotril)という通称名が使われ、後者はザナックス(Xanax)で通っています。ロヒプノールは以下の俗称で呼ばれることがあります。
    • Circles
    • Forget Pill
    • LA Rochas
    • Lunch Money
    • Mexican Valium
    • Mind Erasers
    • Poor Man’s Quaalude
    • R-2
    • Rib
    • Roach
    • Roach-2
    • Roches
    • Roofies
    • Roopies
    • Rope
    • Rophies
    • Ruffies
    • Trip-and-Fall
    • Whiteys

 

  • GHB これはガンマ・ハイドロキシビュータリック(gamma hydroxybutyric)アシッドの短縮形で、以下の俗称で呼ばれることがあります。
    • Bedtime Scoop
    • Cherry Meth
    • Easy Lay
    • Energy Drink
    • G
    • Gamma 10
    • Georgia Home Boy
    • G-Juice
    • Gook
    • Goop
    • Great Hormones
    • Grievous Bodily Harm (GBH)
    • Liquid E
    • Liquid Ecstasy
    • Liquid X
    • PM
    • Salt Water
    • Soap
    • Somatomax
    • Vita-G

 

  • ケタミン(Ketamine) これは以下の俗称でも知られています。
    • Black Hole
    • Bump
    • Cat Valium
    • Green
    • Jet
    • K
    • K-Hole
    • Kit Kat
    • Psychedelic Heroin
    • Purple
    • Special K
    • Super Acid

 

それらのドラッグはどんな形状をしていますか?

  • ロヒプノールは液体に入れると溶解する、丸い小さな白い錠剤です。近年出回っているものには楕円形で緑がかった灰色をしているものがあり、これが飲み物に投入されると透明な液体は真っ青に変わり、濃色の液体なら濁りが生じます。しかしこの色の変化はコカ・コーラや黒ビールのような暗い濃い色の飲み物だと見分けがつきにくく、暗い室内ではわかりづらいものです。また、無色のままの錠剤や、錠剤が粉末状にすりつぶされているものもあります。
  • GHBにはいくつか形状があり、無色無臭の液体、白い粉末、あるいは錠剤の形を取ります。GHBが混入された飲み物はかすかに塩味がしますが、フルーツジュースのような甘い飲み物ならばその塩味を隠すことが可能です。
  • ケタミンは液体あるいは白い粉末です。

 

これらの薬物は身体にどういう影響を与えますか?

これらの薬物は非常に強力で、即効性があり、投薬されたことに気付かれぬまま効果が生じます。薬物効果の持続時間には、使用された薬物の量などでばらつきがあり、その薬物が他の飲み物やアルコールに混入されたかによっても差が生じます。アルコールはこれら薬物の効果を促進するため、深刻な健康被害に及んだり、時には死に至ることもあります。

ロヒプノール(Rohypnol)

ロヒプノールは投薬後30分以内に効果が現れ、長時間に渡って効果が持続します。投薬されると、飲酒時のような行動を取ったり、立っているのが困難になり、言葉遣いが不明瞭になったりします。意識を失うこともあります。ロヒプノールは以下のような問題を引き起こします。

  • 筋肉弛緩や筋肉コントロールの喪失
  • 動作困難
  • 飲酒後のような気分
  • 会話が困難
  • 吐き気
  • 薬物が効いている最中の出来事の記憶がない
  • 意識の喪失
  • 混乱
  • 視覚に問題
  • めまい
  • 眠気
  • 低血圧
  • 腹痛・下痢など
  • 死亡

 

GHB

GHBは投与後15分程度で効果が現れ、効果が3~4時間持続します。非常に強力な薬物で、極めて少量で強い効果を生じさせるため、GHBはオーバードーズ(過剰摂取)を起こしやすい薬物でもあります。普及しているGHBのほとんどが一般人が自宅やストリートでの“ラボ “で作られているため、GHBにどういった成分が含まれているか、何で効果が引き起こされているのか把握できないことがあります。GHBでは以下のような問題が起こります。

  • 弛緩
  • 眠気
  • めまい
  • 吐き気
  • 視覚に問題
  • 意識喪失
  • 発作
  • 薬物が効いている最中の出来事の記憶がない
  • 呼吸困難
  • 震え
  • 発汗
  • 嘔吐
  • 心拍数の低下
  • 夢見心地の感覚
  • 昏睡
  • 死亡

 

ケタミン(Ketamine)

ケタミンは効果が現れるのが非常に早く、何が起きているか意識があっても、身体が動かなくなることがあります。また記憶に問題を生じさせ、薬剤が効いている間に起こった出来事を思い出そうとしても思い出せなくなります。ケタミンは以下の様な問題を引き起こします。

  • 視覚や聴覚に歪みが生じる
  • 時間の感覚のロス、自分が何者かわからなくなる
  • 対外離脱体験
  • 夢見心地の感覚
  • 感情の制御不可
  • 動作機能に障害
  • 呼吸困難
  • けいれん・ひきつけ
  • 嘔吐
  • 記憶障害
  • 無感覚
  • 調整失調(体を思うように動かせない)
  • 攻撃的あるいは暴力的行動にでる
  • 意気消沈・うつ
  • 高血圧
  • 不明瞭なスピーチ(ろれつが回らない)

 

これらの薬剤は米国で入手できますか?

これらの中には医療目的で合法的に用いられるものも含まれています。しかしだからといって安全とは限りません。これらは身体に害を与えるほど強力な薬剤で、医師による注意と指示のもとでのみ用いられるべきものです。

  • ロヒプノールは米国では違法です。欧州とメキシコでは合法で、睡眠障害治療や手術前の麻酔の補助に用いられています。米国には違法経路で持ち込まれています。
  • ケタミンは人体および動物の麻酔薬として米国でも合法ですが、主として動物用に用いられています。そのため、ケタミン窃盗の目的で獣医クリニックが荒らされることがあります。
  • GHBはナルコレプシー(発作性睡眠とよばれる一種の睡眠障害)の治療目的で最近米国で合法化されましたが、流通は厳しく制限されています。

 

アルコールはデート・レイプ・ドラッグと言えますか?その他のドラッグはどうですか?

判断力や行動に影響を及ぼす薬物であればすべて、望まない、あるいはリスクの高い性行為に繋がる可能性があります。アルコールはそうした薬物の一種と言えるでしょう。実際、性的暴行の際に用いられる最も一般的な薬物がアルコールなのです。アルコールの過剰摂取時に起こることとして:

  • 明確な思考が困難になる。
  • 限度を設定したり、正しい選択を行えなくなる。
  • 状況が危険かどうかの判断をつけられなくなる。
  • 性的に迫られた際、「ノー」と言いづらくなる。
  • 性的暴行が発生した際、強く太刀打ちすることが困難になる。
  • 意識や記憶を失ったりする。

 

「エクスタシー」と呼ばれるクラブ・ドラッグの一種(MDMA)は、性的暴行の際に使用されてきている薬物です。被害者が気付かないうちに飲み物に混入されたりします。また、自分から進んでエクスタシーを摂取すれば、性的暴行を受けるリスクが高まります。エクスタシーには、他人に対して「Lovey-Dovey(恋して夢中になる)」のような気分になる効能があり、理性に従って相手と合意する能力が落ち込みます。エクスタシーが効いている間は、危険を察知する能力が下がり、性的暴行に抵抗する力も弱まるのです。

しかし、たとえ性的暴行の被害者が飲酒してたりドラッグを自分から進んで摂取していたとしても、被害者が暴行を受けて良い理由にはなりません。合意がない状態での性的接触は、絶対に認められるものではありません。性的暴行は常に暴行を働いた側の人間の責任です。いかなる状況下であろうと、性的暴行は決して被害者のせいではないのです。

 

被害者にならないためにどのように自分を守ったらよいですか?

  • 他者からのお酒を受け入れないこと。
  • 飲み物の容器は自分で開けること。
  • 自分の飲み物は、たとえトイレに立つ時でも持ち歩き、常に目の届くところに置くこと。
  • 飲み物を他人とシェアしないこと。
  • パンチ・ボウルのように誰でもアクセスできる飲み物の容器からお酒を注いで飲まないようにすること。すでに薬物が混入されているおそれがあるため。
  • もしもバーやパーティで他の誰かから飲み物をオファーされた場合には、その相手と一緒に注文しにゆくこと。お酒が注がれているところを自分の目で確かめ、自分でそれを運ぶように。
  • 妙な味やにおいがする飲み物は飲まないこと。GHBは塩味がすることがある。
  • 何事も起こらないことを確認するため、飲酒しない友人を同行させること。
  • 飲み物を放置していた時間があったと気づいた際は、その飲み物を捨てること。
  • お酒を飲んでいないのに酔っ払っているような気分になったり、いつもより強くお酒が効いていると感じられるときは、即座に助けを求めること。

 

薬物を投与されてレイプされたことをどうやって見分けたらよいですか?

自分が薬物を投与されてレイプされたとはっきり知るのは往々にして困難です。被害者は薬物を与えられたことも暴行を加えられたことも覚えていないことが多いのです。暴行発生後8時間から12時間も経ってから、ようやく自分に危害が加えられたことに気付いたりします。また、これらの薬物は体内から消滅するのも速いため、被害者が助けを求めたころには、暴行に薬物が使われた痕跡が残っていない可能性があるます。ただし、以下のように、薬物を投与された可能性が示唆される場合があります。

  • 飲酒しなかったのに飲酒したような気分になっている、あるいは、通常よりもお酒が強く効いたような気がする。
  • 目が覚めたときに強い二日酔いの症状に似た感覚があり、方向感覚が狂ってフラフラしたり、ある期間の記憶がすっかり途切れている。
  • お酒を飲んだことまでは覚えているが、そのあとの記憶がない。
  • 服が破れていたり、ちゃんと着付けていなかったりする。
  • 性交したような気がするが、それを覚えていない。

 

もし自分が薬物を投与されてレイプされたと思った時にはどうしたらよいですか?

  • 直ちに病院での手当を受けましょう。911(救急番号)に電話をし、信頼できる友人に病院の緊急医療窓口についていってもらいましょう。病院に行く前には、排尿、膣洗浄、入浴、歯磨き、手洗い、着衣の交換、飲食飲酒はしてはいけません。これらがレイプの証拠になり得るかもしれないためです。病院では証拠を収集するために「レイプ・キット」を用います。
  • 病院から警察に電話しましょう。警察には覚えていることをありのまま述べましょう。自分がとった行動をすべて正直に伝えましょう。覚えておいてください、お酒を飲んだことやドラッグをやったことなど、被害者の側の行動は何一つレイプを正当化するものではないのです。それを忘れないようにしてください。
  • 尿サンプルを取ってデート・レイプ・ドラッグの検出テストをしてくれるよう病院に頼みましょう。薬物はかなり短い時間のうちに体内から消滅しますが、ロヒプノールは投薬後しばらくは体内に残留するため、投薬から72時間以内であれば尿内から検出される可能性があります。GHBの体内残留時間は12時間です。病院に向かう前に排尿してはいけません。
  • 暴行が加えられた場所を片付けたり掃除したりしてはいけません。飲み物のグラスやベッド・シーツなど、証拠が残されている可能性があるからです。
  • カウンセリング治療を受けるましょう。恥ずかしい気持ち、罪の意識、恐怖感、ショック、そうした感情が被害者に湧くのは正常なことです。カウンセラーはあなたのそうした感情に寄り添って手助けをし治癒のプロセスに導いてくれるでしょう。クライシス・センターやホットラインに電話をかけるのも良いでしょう。そのひとつ、National Sexual Assault Hotline(全米性的暴行ホットライン)の電話番号は800-656-HOPE です。

 

デート・レイプ・ドラッグに関する質問への回答は得られましたか?

デート・レイプ・ドラッグについてのより詳しい情報は、OWH ヘルプライン(電話 800-994-9662)、あるいは、下記団体へ。

  • Drug Enforcement Administration, DOJ(司法省麻薬取締局)
    • 電話202-307-1000
  • Food and Drug Administration, HHS(保険福祉省食品医薬品局)
    • ホットライン 800-332-4010 あるいは888-463-6332(一般消費者向け情報)
  • National Institute on Drug Abuse, NIH, HHS(保険福祉省国立衛生研究所内国立薬物乱用研究所)
    • ホットライン 800-662-4357 あるいは 800-662-9832 (スペイン語ホットライン)
  • Office of National Drug Control Policy(全米麻薬撲滅対策室)
    • 電話 800-666-3332 (情報センター)
  • Men Can Stop Rape
    • 電話 202-265-6530
  • National Center for Victims of Crime(全米犯罪被害者センター)
    • 電話 800-394-2255
  • Rape, Abuse, and Incest National Network(レイプ・虐待・近親相関全米ネットワーク)
    • 電話 800-656-4673

 

 

 

Advertisements

[記事翻訳] Japan, Home of the Cute and Inbred Dog

アメリカのパピーミルの問題は深刻です。多くの犬が人間の欲(利益)のために量産され、不要になった犬たちは、それこそ工業製品のように殺され、捨てられ、野良と化した犬達はさらに道端で子を産み、保健所やシェルターには行き場のない犬が溢れ、どこからも引き取り手が現れない犬たちは、殺処分室へと送られます。

10年ほど前、NYタイムズに、日本で売られる犬に遺伝子異常や奇形が多いという記事が掲載されました。その記事のことを、数日前にツイッターで紹介↓↓したら(誤字ごめん)、多くの方から反応がありました。

 

アメリカで起きているパピーミルの問題は、日本でも起きている—。

それをひとりでも多くのひとに知ってもらいたいという気持ちから、記事を全文訳しました。10年も前の古い記事ですが、この記事で語られた問題は、きっと、日本のどこかで、今も続いている。アメリカの10年前のパピーミル問題が、潰しても潰しても、あらたに湧いてくるのと同じように。

お願いです。軽い気持ちで、モノのつもりで、「命」を店頭で買わないで。

犬を飼いたくなったとき、生体販売のペットショップに向かう前に、どうかシェルターをのぞいてあげて。

どうしても特定犬種が欲しい方は、店頭ではなく、その犬種で定評あるブリーダーから直接入手してほしい。

以下は、2006年12月28日に、ニューヨークタイムズに掲載された記事の翻訳です。(翻訳文中に挿入された写真は原文記事に掲載されているのと同じ写真です。)

原文はこちら:Japan, Home of the Cute and Inbred Dog

日本は愛らしい近親交配された犬の国

2006年12月27日 東京

DogInbred.jpg

青っぽい毛色をしたチワワが欲しくはないですか?

それとも、ハンドバッグに入ってしまうぐらい小さなティーカッププードルはいかがでしょう?盆栽のワンコ版とでもいいましょうか。

日本人は、そんな犬たちが大好き。

ここでは希少な犬を愛でるひとたちがいて、100万円といった驚くほど高価な価格がついたりする。だが、そんな犬と一緒に産まれてきたきょうだい達に、ほんとうの問題が隠れている。遺伝子異常を抱え、四肢が欠けていたり、目や鼻がない子犬たちだ。

脳にひどい障害を持ち一日中ぐるぐると円を描いて走り続ける犬がいる。骨が弱すぎて体内で溶けてしまう犬もいる。獣医師やブリーダーらは、売られている多くの犬が何らかの病気を隠し持っていて何年か後にそれが発症することもあると言う。

ミヤウチ・キヨミさんは、そういう悲しい体験をすることになった飼い主のひとりだ。何年も前に買ったボストンテリア2頭のうちの一頭が、昨年ミヤウチさんの居間で突然倒れ、けいれんを起こして死んでしまった。3月には、その犬が産んだ子犬の一頭が同様の状態で突然亡くなり、もう一頭の子犬は目が見えなくなった。

ミヤウチさんの体験談はここでは実はしょっちゅう起こっている。だが、その問題に注意が向けられるようになってきたのは最近のことだ。無謀な近親交配のせいで、日本は遺伝子異常を抱える犬の割合が世界的にみても高く、異常発生率は米国や欧州の4倍もあったりする。

日本という国は、抱きしめたくなるキュートなものを社会的なステータスシンボルに変える傾向がある。日本でいま犬たちが抱えている病気も、そうした傾向が生んだ悲劇だ。しかし日本人には流行に飛びつくところもたぶんにあって、彼らは常になんらかの流行りに囚われているひとたちにも見える。

「日本人はなにかブームが起こると熱狂的になりやすいんです。」そう語るのは相模原市の麻布大学獣医学部で遺伝子異常が専門のカゲヤマ・トシアキ教授だ。「でも、犬は単なるステータス・シンボルじゃない、生き物なんだということを忘れている人がいる。」

日本では犬は流行の最中だ。さほど問題にはならないだろう流行りだと、たとえばピンク色の流行というのがある。ピンクのデジカメ、ピンクのポータブルゲーム機、そしてもちろん、ピンクのラップトップコンピューター、そういうグッズが若い女性の間では必須アイテム扱いだ。去年は‟虫王”というカブトムシを戦わせるコンピューターゲームが流行った。

日本発の大流行の中には、大平洋を越えてアメリカに渡りそこでも子供達を夢中にさせたものもある。コンピューターのスクリーン上で育てるバーチャルペットのたまごっちや、風変りなカートゥーン満載のポケモンがそのよい例だ。

神経を磨り減らすような教育システム下で、日本人は周囲と調和を保つよう教え込まれる。日本人の流行りものへの愛着は、そうして叩きこまれる集団を重んじるカルチャーの反映かもしれない。しかし、一大ブームが巻き起こる現場には、ビッグ・ビジネスの影もみえる。ソニーや任天堂といった企業は、可愛らしくて新しいキャラクターやデバイスを次々に生み出して、人々に愛される次のヒット商品を創り出すのに忙しい。群れで動く日本の消費者心理に便乗し、ソフトウェア開発者からマーケッター、そしてディストリビューターまで、複雑な産業構造全体を維持してゆくのに、そうした大流行が貢献しているのは間違いない。

それと同じことが、急成長で現在年商100億ドル(1兆円)規模とも言われている日本のペット産業にも起きている。現在は、某金融会社のテレビコマーシャルに登場したチワワが犬種としては大人気だ。1990年代初め頃は、シベリアン・ハスキーが出演するテレビドラマが話題になり、それまで日本では数百頭しか売れてなかったシベリアン・ハスキーが、ブームに乗って一挙に6万頭売れた。しかし、日本ケンネルクラブの話では、その流行が去るや、シベリアン・ハスキーの売り上げはガタ落ちになったという。日本の小ぶりな住宅事情にはそぐわない大型犬だったにも関わらず、シベリアン・ハスキーに人々は熱狂したのだ。

合衆国でも特定犬種の売り上げが急増することはある。米国では人気犬種を量産する‟パピー・ミル(子犬工場)”の問題に悩み、対抗措置として、病気を抱えた動物の販売を禁ずる法律がいくつもの州で施行された。

しかし、ある犬種が人気になると、その売上げ急増の仕方が日本ではとりわけ極端と統計が語っている。ケンネルクラブによれば、倫理観に欠け大流行に便乗して儲けることしか考えず、僅かの数の親犬から大量の子犬を量産するブリーダーが存在するという。日本には健康管理の行き届いた環境を心がけるブリーダーが大勢いるが、中には金儲け優先で犬の状態に注意を払う気などない繁殖業者も一部でまかりとおり、パピーミル乱立に至っているというのだ。

さらに、日本の犬繁殖業界にそうした危険な近親交配がはびこるもうひとつの隠れた理由に、日本の出生率の低下を挙げる獣医師や専門家もいる。

子供を持たない女性やカップルの数が増加するに従い飼い犬の数も増えていて、彼らは子供の替わりに犬を可愛がり甘やかしている、と専門家は指摘する。ペット業界誌の発行元ヤセイ社の社長ハラダ・タカシさんによれば、日本でペットとして飼われている犬の数はこの10年間で倍増し、昨年時点で飼われていた犬の数1300万頭、これは12歳以下の子供の数を上回る数字だという。

ハラダさんは「子どもの数が少ない、あるいは全くいない家庭が、その空白を埋めるために犬に向かっているのです。」と言う。「家族の一員として迎える犬なのだから、人間のように、ユニークで特徴のある犬がいい、そう考える人がいる。」

実際、そうした飼い主の多くが、子供を誇る親のようなつもりで、他人にみせびらかすことができる犬を欲しがる。特別な犬を手に入れるために彼らは高額を支払うのを厭わないし、珍しい犬であればあるほど高値が付く。特徴として毛色が青みがかっている犬を欲しがる買い手が多いが、それは劣性遺伝子が持つ特徴であり、やはり他の劣性遺伝子と掛け合わせることでのみ生み出すことができるのだという。

劣性遺伝子の掛け合わせには、近親交配が手っ取り早い。その特徴を受け継ぐ子犬を代々産ませるために、その劣勢遺伝子を持つ犬は、自分が産んだ子犬と繰り返し交配させられる。

近親交配でも、注意深く手順を踏めば安全な場合も実際ある。しかし、日本では、細心の注意を払うどころか、利益の前にはそんな注意はお構いなしの繁殖業者が多すぎる、と専門家たちは言う。たとえば、青みがかった毛色をした子犬を一頭生み出すごとに、奇形を伴う犬が何頭も一緒に生まれてくるという。奇形も、劣性遺伝子を掛け合わせた結果なのだ。

「需要が非常に強いので、繁殖業者のほうもその需要に便乗しようという誘惑にかられる。」そう述べるのは、チワワのブリーダーとして日本でトップと定評があるカワナベ・ヒデカズさんだ。「手早く金儲けをすることしか考えていない、犬を工業製品かなにかだと思っている、そういう悪徳ブリーダーが一杯いるんです。」

問題が認識されてから日が浅いため、ラブラドール・レトリーバーの腰骨奇形に関する遺伝子異常の総合調査も日本ではつい2年前に出されてきたばかりだ。その調査結果によると、ラブラドールの半分近くに腰骨の形状異常が発生していた。同調査を手掛けた麻布大学のカゲヤマ教授によると、この結果は米国の4倍にあたる数値なのだという。

広島市でペットストアを営むササキ・ヒロフミさんは異常を持った犬が多すぎることにこころを傷め、昨年古いバーを改築し、異常を抱えた犬達が余生を過ごせるホスピスを作った。これまで彼が引き取った犬は32頭いるが、生き残っているのは12頭しかいない。

dog hospice.jpg

ササキさんの犬ホスピスに、ケイカと名付けられた1歳の雌のダックスフントがいる。耳が聞こえず、目は絶え間なくあちこち彷徨う。この犬のブリーダーは当初、ダックスフントとしては珍しく身体の半分が白いということで、この子を7500ドル(75万円)で売ろうとした。

「人間の自然な肌色が青ではないように、白い身体のダックスフントも自然の色ではないんですよ。」とササキさんは言った。

そのブリーダーはササキさんに、ケイカを創り出すために子孫を3代掛け合わせたと言ったそうだ。つまり人間でいうと、まず娘と交配させ、生まれてきた孫と交配させ、そこで生まれてきた曾孫とさらに交配させたら、ケイカができた。しかしケイカと一緒に産まれたほかの4頭の子犬はいずれもひどい奇形だったため、生後すぐに処分された。

先に登場したボストンテリアの飼い主で神戸在住のミヤウチさんは、犬の近親交配が日本で広く一般に行われていることを知り愕然とした。彼女の2頭目のボストンテリアが亡くなった時、ミヤウチさんはブリーダーに連絡を取ろうとしたが、ペットショップから渡された電話番号は使われていない番号だった。

「誰もこの業界を監視していないのです。」とミヤウチさんは言った。

日本政府は監督が行き届いていないことを認めており、この6月に遺伝子異常が認められる犬を繁殖に用いる業者からブリーダー免許を剥奪する法律を作った。しかしペット業界の管轄である環境省には、全国に2万5千あるペットショップや、犬舎、ブリーダーをモニターして取り締まる人員が4人しかいない。

日本ケンネルクラブでは、この4月から、血統書上にDNAスクリーニングテストの結果を記載し始めた。しかしそれも、危険な近親交配を防ぐため犬種ごとに認可される体色を徹底させているアメリカン・ケンネルクラブの規則には及ばない。

日本ケンネルクラブ会長のナガムラ・タケミさんは、「犬の遺伝子異常への対策では、日本はかるく30~40年は遅れているんですよ。」と言う。

動物ケアに関わるプロ達は、究極的な解決にはブリーダーだけではなく将来犬の飼い主になるかもしれない側も教育する必要があると口をそろえる。

日本動物愛護協会で獣医を勤めるヤマグチ・チズコさんはこう言う。「もし消費者の側が、不自然な姿をした犬を買いたがるのをやめれば、ブリーダーも危ない繁殖を止めるようになるのです。」

(記事終)